夏を前にヲトメは
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


自力では結局そんなには降らなんだ変梃子りんな梅雨は、
その終焉に大暴れの気配を呈しつつあるようで。
しかも、明けるのと同時に途轍もない猛暑を呼び込みもしと、
ロクでもなかった印象しか残さなかったような気が。

 「まだ完全に明けてはないですが。」
 「早く明けてほしいもんですって。」

あまりの猛暑日の連続に、
西日本ではもうそろそろ立秋が来てもいいくらいの心持ちだと、
メルトモのお姉さんが言ってましたしとは、
ネットつながりでとんでもなく顔が広い平八のお言葉で。

 「こっちでは午後になると凄まじい夕立になってますが、
  西日本では必ずしもそうでもないらしいですよ?」

九州や日本海側はともかく、
瀬戸内沿岸じゃあ 七夕も余裕で晴れたそうですしと、
お天気の話題だからか、
いやにロマンチックなものを持ち出した
ひなげしさんだったものだから、

 「七夕かぁ。
  ヘイさんだったら、
  それは頑丈な橋を架けてしまわれるんじゃないですか?」

七郎次がくすすと微笑って現実的なところを付け足して差し上げる。
何せ、それはそれは腕のいいエンジニアさんの卵だもの、
相手が天ノ川でも何するものぞで、
重機からして自力で作り上げての、
同じく困っている人たちに呼びかけて、
壮大な建設計画ぶち上げそうでと。
いかに頼もしい織り姫かと並べ立てれば、

 「それはいいですねvv」

意地悪から言ってる訳でなしと察してもいたし、
むしろそうと見込まれたは光栄と。
つばの広い麦ワラ帽子を胸元へ降ろしてウチワ代わりにしつつ、
あははと軽やかに笑ってしまわれるばかり。

 「久蔵殿なら、
  八叟飛びを発揮して
  そりゃあ軽やかに自力で飛んで渡りそうですよね。」

続いての例えばが飛んだ先、
やはりやはり ただ萎れてなんかいませんともと思わせよう
神憑りな跳躍を誇る紅ばらのお嬢様はといや、

 「………。///////」

大好きな七郎次から褒められたと感じたか、
白皙の頬を染め、純粋に照れて見せるばかりだったが。
デッキチェアの上、
ゆったり伸ばしておいでのすらりとした肢体を見れば、
彼女の肩書を全く知らない人であれ、
ああもしかして可能かもと感じ入ったかも知れぬ。
ほっそりした伸びやかな四肢からは
天女様のような印象さえ感じられる一方で、
ガチで筋肉質では決してないけれど、
それでも…儚げというよりは

 “柔軟強靭という単語が
  浮かんでしょうがないのは なんででしょうか。”

チューブトップタイプのセパレートな水着が、
なのに競泳用に見えるほど、
その背条がピンとしているからか。
それとも、風貌や所作に
きりりとエッジが立ってる印象をおびておいでだからか。
ここまで只者ではないと思わせる女子高生も珍しいかも。
…いや、実際“只者”じゃあないんですがね。(こらこら)

 「シチさんなら、カササギを手なずけてしまうんじゃあ?」

言わせてばかりじゃおりませんよと、
平八が白百合さんへと逆襲を仕掛ければ、
それへと乗ったか久蔵も、

 「島田なら、念じて川を割りそうな気が。」
 「…モーセですか。」
 「せめて、信玄公で有名な護岸工事とか手掛けて、
  堰で止めるとかいう方向で…。」

これこれ、もしかして期末考査を引きずっていませんか、お嬢様がた。
自分たちでもそうと思ったか、
顔を見合わせるとふと息を詰め、
だがだが次の間合いでは あははと笑い出すご陽気さよ。

 やぁね、せっかくの試験休みなのに。
 ホ〜ント、後は野となれ山となれなものを思い出してどうしますか。
 ………。(頷、頷)

憂鬱な期末考査という洗礼をくぐり抜けたその途端、
襲い来た連日の猛暑にますますとうんざりしつつも、
そこは“若さ”という基本体力が違うというもの。
好奇心という潤滑油も加味された、お年頃のお嬢さんたちだもの、
暑いってだけじゃあ じっとしてもいられない。
話題のスポットに足を運んだり、
並んでまでして食べるのはどうかなと言いつつ、
一応はのお味見だと、結局は噂のパンケーキのお店へも行ってみたり。
バーゲンにも運んだけれど、
この夏の流行がイマイチ把握できてないというか、

 『しまった、猛暑対策をつい優先しちゃう。』
 『うん。アタシもでげす。』
 『………。』

蒸れない生地の、とか、
冷房対策のジレとかスカーフとか、
色柄やデザインよりも
そっちを先に見てしまう自分にハッとしてしまい。
やだやだ、こんなところで“かつての蓄積”が出ようとはと、
愕然としかかったお嬢様たちだったのも、
ある意味で相変わらずだったりし。(笑)
そんなこんなの羽伸ばしの中、
今日は これまた毎年恒例、
ホテルJの屋上プールへお出ましの三華様たちで。
梅雨明けとはいえ、まだあまり気温は上がらぬ例年と違い、
今年はもはや結構な人出もあってのこと、
お三方の瑞々しい若さみなぎる水着姿へも、視線が集まる集まる。

 「まあ、これこそが“夏”で“プールサイド”でもある訳ですし。」

椰材を張ったテーブルへ並んだ、ダルマみたいな真ん丸グラスに
クラッシュアイスと南国の花を添えて満たしたは、
青やオレンジがいっそ涼しげな、トロピカルドリンクで。
抜けるような青空を透かして降り落ちる目映い陽差し、
それを弾くは、白亜の四阿(あずまや)と濃色の観葉植物の生け垣。
風にそよいでひらめくは、麦ワラ帽子に巻かれたシフォンのリボン。
プールの水に溶け込む陽は、
波を縁取ってだろう、網目のような模様を織り成して遊び。
やかましくはない穏やかさ、
一応の品の良さこそ保たれちゃあいるけれど、
それでも水辺を楽しむ人々の歓声が絶え間ない、
いかにも真夏の真昼という趣きのプール際。
都内でも指折り、
セレブが集うエグゼクティブなという印象の強い場だとはいえ。
麗しどころの水着姿には人目も集まろうし、
ドリンクサービスを提供しているカウンターへ運ぶ男性客らは、
こちらを見やっては、だがだが、
担当の係員にゆるゆるとかぶりを振られちゃあ断られてばかりおり。

 『原則、勝手な“振る舞い”は断ることとなっているからな。』

間接的な贈り物、あの方がどうぞとお勧めですなんてな格好で、
飲み物を贈る図が、映画やドラマの口説きのテクとして出て来るが、

 『一方的すぎて 女性には時に迷惑だからと、
  前々から問題視されてたもんだから。』

当ホテルでは、原則、
先様にご了解いただかないサービスをお届けすること
控えさせていただいておりますと、
やんわり断る方針も用意されてはいる。
前以て届け出ておくという順番のものであり、
自惚れていうのじゃなくの、
例えば彼女らみたいに未成年の場合などに適応されているのだが、
それへと面目潰されたの何のと言い出すお人には、
それなりの対応も用意があるとか。

 『でも、それもまた刺激があるって
  楽しみにしている向きの人も。』

おいでかも知れないよと七郎次が案じたところ、

 『そういうお楽しみがしたいなら、
  本人同士でどんとぶつかりゃいいのだ。』

どんと大太鼓の音がしそうなほどきっぱりと
胸を張って言い切った紅ばらさんだったのへ。
おおお、久蔵殿たらスパルタだぁと、
説明を訊いた段階では
まるきりの他人事として笑い飛ばしたお嬢様たちだったれど。

 「直接しかないってのも、案外と鬱陶しいもんだねぇ。」
 「う〜ん。」
 「〜〜〜〜。」

例えば、店のバーテンダーの方を介しての贈り物であれ、
迷惑だったら“ごめんなさい”と断ればいい。
そこのところは同じなワケだから、
当人の顔を潰さずに済むという点では、むしろ穏便なことといえ。

 「でもさ、逆にいや、
  そういう準備だてやガードを前以てしてるんだってことから先を、
  何で想像しないかな。」

未成年だとか、許婚者がいますとか、
もっとはっきり言って“ナンパされに来たんじゃありません”とか、
そういう意思表示だってこと、何で判らないかなぁと。
質量があるんじゃないかというほどの注目度となって来た視線に辟易し、
それぞれにローヴやパーカーをさらりとまとうと、
関係者用のドアへと向かう彼女らであり。
何だよ、そういうのありかよという、残念そうな視線や空気、
勝手だとしつつ、でもでも、
その一方で“判らぬではない”と感じていたりもし。

  だってね、あのね、

 “………。(あ〜あ)”
 “せめて あのくらい積極的にサ。”
 “構ってくれたらなぁ…。”


恋するヲトメは、昨今の梅雨の空模様以上に複雑なのです。






     〜Fine〜  13.07.15.


  *BGMは、生稲晃子ちゃんの『麦わらでダンス』でしたvv
   七夕前に書きかけてた導入部を使い回しちゃいましたが、
   いや本当に、
   こっちではところによってあんまり降らなんだ梅雨だったので、
   九州や山口だったか、
   大変だった地域のを分けてほしいくらいです。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る